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東京高等裁判所 昭和36年(行ナ)188号 判決 1965年9月11日

原告 リセンチア・パテント・フェアワルツングス・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクター・ハフツング

被告 特許庁長官

主文

特許庁が昭和三四年抗告審判第三七四号事件について、昭和三六年八月一日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一、双方の申立

原告は、主文同旨の判決を求め、被告は、「原告の請求を棄却する。」との判決を求めた。

第二、原告の請求原因等

一、原告は、昭和二九年一二月四日「大気中で開閉する瓦斯吹付開閉器」なる発明について特許出願をしたところ(同年特許願第二六、四〇三号)、昭和三〇年九月五日出願公告の決定があつて、昭和三一年二月二四日その出願公告がなされた(昭和三一年特許出願公告第一、二七五号)。これに対し、訴外三菱電機株式会社から特許異議の申立があり、次いで訴外株式会社日立製作所から右特許異議に対する参加があつて、審理の結果昭和三三年一〇月二九日右異議を理由ありとする旨の決定と同時に拒絶査定がなされた。そこで原告は昭和三四年二月一九日抗告審判の請求をしたが(同年抗告審判第三七四号)、特許庁は昭和三六年八月一日抗告審判の請求は成り立たない旨の審決をし、その審決書謄本は同月一二日原告に送達された。なお右審決に対する訴提起の期間は特許庁長官の職権により同年一二月一一日まで延長された。

二、本件特許出願にかかる発明の要旨は、「電圧絶縁のための大気中の空気間隙と、固定絶縁体上に設けた開閉室とを有する吹付け開閉器において、少なくとも各一個の可動電極棒を、開放状態において、電圧絶縁間隙の形成に十分な絶縁距離が得られる如き距離に定置するように鎖錠することを特徴とする吹付け開閉器」にある。

三、右審決の理由の要旨は次のとおりである。

「本願発明の要旨は右二のとおりであると認められ、その構成要件を解析してみると、(1)固定絶縁体上に開閉室の設けられたガス吹付型開閉器であること、(2)少なくとも各一個の可動電極棒は開放状態において十分な絶縁距離が得られるが如き距離に定置するよう鎖錠されること、にある。

ところで昭和一七年実用新案出願公告第二七八号公報(本件の甲第四号証の九)に記載されたもの(以下第一引例という。)は、固定絶縁体上に設けた開閉室内の可動電極棒を圧縮空気により操作せしめると共に空気吹付により消弧し、消弧後は該電極棒を開閉室内に保持するようにした空気吹付遮断器に関するものであり、また昭和一七年実用新案出願公告第一、〇七一号公報(本件の甲第四号証の八)に記載されたもの(以下第二引例という。)は、圧縮空気で操作される回路遮断器において、可動電極棒が開放状態において電圧絶縁間隙の形成に十分な絶縁距離が得られる位置において鎖錠される構造であることが、その各記載事項から認められる。

そして、本発明の構成要件たる前記(1)は第一引例と同等であり、(2)は第二引例とその要旨を相等しくするものと認めるから右(1)及び(2)によつて構成された本発明が旧特許法(大正一〇年法律第九六号)第一条にいう発明に該当するかどうかは、(1)及び(2)を組み合わせることに顕著な作用効果を奏する発明が存在するかどうかにかかる。しかるところ一般にこの種の開閉器においては、開放時の可動電極に十分な絶縁距離を与えるようこれを保持することは当然の手段であつて、鎖錠又はこれに代る手段を行わないで自由に遊ばせておく方をむしろ不自然というべく、まして本発明の鎖錠手段の実施例が第二引例と全く一致する限りにおいて、たとえ第一引例に鎖錠のための特別の手段が明らかにされていないからといつて第一引例に第二引例の鎖錠手段を加えること、すなわち(1)及び(2)を組み合わせることを取り上げて、これを前記規定にいう発明をなしたものとするには足りない。請求人はまた、本発明が多重接点型開閉器に関する発明であることを明らかにした訂正案を提出しているが、この種の開閉器を多重接点とすることは尋常の設計に過ぎないから、多重接点なるが故に本発明が右規定の発明としての要件を具備するには至らないものと認め、あえてその訂正を命じない。」

というにある。

四、しかしながら右審決は次の理由によつて違法であり、取り消されるべきものである。

(一)  本願発明の要旨は、前記二に記載のとおりであるところ、第一引例は、大気中において空気を吹きつけることにより電極間に発生した電弧を消減せしめる、本願発明と同型式の遮断器の一改良構造に関するものであつて、寒冷地において凍結による開閉不能等の事故を起さないように、常時加熱ガスを支持碍管内に通すようにしたものである。

ところでこの種の従来の圧縮ガス吹付型遮断器は、乙第二号証の「発明の詳細なる説明」の冒頭の二節にあるように、また甲第一〇号証に記載されているように、断路器又は回動装置を必要とするものであるが(甲第三号証の本願の特許公報第一頁左らん)、本願発明はこのような型式の遮断器において、(a)開放時の電極間隔を「電圧絶縁間隙の形成に十分な距離」(遮断距離)とし、(b)かつ、その十分大きな間隙にある状態に電極を鎖錠することによつて、従来必要であつた断路器又は回動装置―これら両者を含めて断路部と呼び、電極部分を遮断部と呼んでいる。―を不要ならしめたものであつて、右第一引例においてその電極間隔が右にいう十分な距離であると解すべき記載は引用公報中には見出し得ない。

そして前記構成をもつ本願発明の利点は、その特許公報第一頁右らん上半に記載してあるとおりであつて、すなわち本発明によれば、ガス圧を下げることができるという外に、電圧絶縁間隙を形成するために旋回あるいは回動する絶縁碍管を有する開閉器において、従来必要であつたそのための駆動装置が不必要となり、その結果、開閉器全体としてその構造が非常に簡単になるという利点もあり、更に本発明による開閉室は、これを多重遮断型に組み立てるのに非常に好都合であり、また遮断点に並列の抵抗を流れる残留電流の遮断点を簡単に取り付けることもできる、のであるが、第一引例がこのような効果を奏し得べくもないことはいうまでもない。

(二)  第二引例は、噴出口から入つた圧縮空気によりピストンを押し上げて電極を引き離し、右電極間に発生した電弧を消減せしめるためにこれに向けて噴出口からの圧縮空気を吹きつけ続け、この空気圧力によつて押し上げられたピストンが排気口をこえたとき、これをその位置に鎖錠し、消弧室内の圧力空気をして、噴出口より遙かに大きく構成してある排気口より急激に消弧室外に排出せしめ、以て消弧室内の空気圧力を急減して(空気の膨脹により消弧室内の温度は低下する。)、電弧を冷却し、噴射空気の消弧作用と相俟つて消弧を促進するようにした遮断器である。

このように第二引例は、その電極が遮断期間中圧力空気下におかれ、遮断し終つた後において漸く大気圧下におかれる極めて特殊のものであつて(未だ実用されたことを聞かない。)、終始大気圧下において作動する本願発明とは消弧の機構を異にする別種の遮断器に属し、ただ電極を鎖錠する一点を共通にしているのみである。

(三)  以上要するに、本願の「大気中において空気を吹きつける従来の方式の遮断器の電極を、十分な電圧絶縁距離に保つようにした思想」は、第一、第二引例には示されておらず、従つてこれら引例によつて本願発明の新規性は否定さるべくもない。

(四)  ところで、消弧後も可動電極を開放位置に鎖錠ないし保持し、断路器を使用しない遮断器が第二引例の外にもあるとして提出された乙第二号証に示すものは、被告のいうとおり、ガス吹付型遮断器において、従来の断路器を不要ならしめたものであると説明されてはいるが、後記のとおり、却つて従来のガス吹付型遮断器は断路器を必要としたことを明らかにしている。そして、そこに示されたものは、第一発弧接点N1を収容する消弧室Aと、第二発弧接点N2を収容する密閉高圧ガス室Bとより成り、第一接点で消弧するや、第二接点は圧縮ガス中におかれ、圧縮ガスの高耐電圧性により第二接点で絶縁を確保(十分な電圧絶縁間隙)するようにしたものである。換言すれば、この第二接点に従来の断路器の作用を行わせるものであつて(乙第二号証の公報の「発明の詳細なる説明」、第二、三節)、遮断部たる第一接点が本願発明にいう十分な電圧絶縁間隙に保たれるものではない。すなわち、通常の断路器こそ使わないが、遮断部Aと、これとほぼ同一構造の、しかも充気式の断路部Bとより成り、その構成は特異複雑なものであつて、本願発明のように単に(a)電極の間隔を十分大きくし、(b)かつ、その状態に鎖錠するようにして、遮断部の作用を兼ねしめた簡単な構成によつて断路器を不要ならしめた構成とは、凡そ無関係のものである。被告は、乙第二号証のものは電極鎖錠によつて断路器を不要ならしめたものであるというが、仮りにそれが断路器を不要ならしめたものであるということができるとしても、その第二接点(断路部)が絶縁を確保するものであるから(前記公報第二頁下段)第一接点(遮断部)が開いていようとも閉じていようとも、第二接点が十分な電圧絶縁間隙に保たれることに変りはなく、遮断部の電極を鎖錠したがために、いうところの断路器を不要ならしめ得るものではない。

(五)  被告は、第一、第二引例のようなガス吹付型遮断器において、可動電極がその最大間隔を示すまでの途中で消弧を完了し、その後更に移動して最大開放位置(遮断距離)に達するものであることは、例えば乙第二号証の記載から明らかであるとしているのであるが、(被告提出の昭和三八年一〇月二四日附準備書面参照)、右乙第二号証の「発明の詳細なる説明」の第一節及びこれに続く第二節にいうところは、「圧縮ガス吹付型遮断器の吹付効果は瞬時的に消弧するだけであるから、電弧が一たん吹き消されても、電極間隔を更に大きく(吹き消された瞬間の間隔より大きく)しなければ何時再点弧するやも知れず、その再点弧を防ぐために従来は断路器を附設したのである、」という趣旨であつて、これは「従来のものが、一たん消弧すれば電極は常に必ずその位置に止まるものである、」という趣旨ではないにしても(遮断器作動時の諸条件により、電弧が吹き消される電極間隔は一定ではない。)、「電極が本願発明にいう十分な距離まで移動する、」という趣旨と解することはできない。なんとなれば、従来のものが被告のいうように遮断距離まで電極が隔たるのであれば―乙第二号証の右記載がかような趣旨であるなら―再点弧はしないことになるのであるから(定義により)、再点弧を防ぐための断路器は必要がなく、右第二節における「斯る再点弧現象の防止対策として消弧接点と直列なる断路器を大気中に附設し該断路器を稍遅れて操作し回復電圧に対する絶縁確保に役立たしむ、、、」は自家撞着たるに至るからである。

このように乙第二号証によつて第一引例及び第二引例の電極間隙が本願発明のいう十分な絶縁距離であるとするのは当らない。

更に被告は右準備書面において言葉をかえて引用例における電極間隔も十分な電圧絶縁間隙たり得るとしているが、その趣旨は、いま仮りに第一引例に基く(断路部を有する)十万ボルト用の遮断器を例にとれば、この遮断器の電極間隔は断路部なしでも十万ボルトより低い例えば五万ボルトに対しては十分な絶縁間隙たり得るというのである。確かにそのとおりに違いないが、それは設計の経済を度外視した現実遊離の議論であり、しかも第一引例が断路部を不要ならしめたものであつて(電極が十分な電圧絶縁間隙に保たれるものであつて、)、かつその電極が開放位置に鎖錠されるものであるとき始めて被告の右主張が成り立ち得る道理であるのに、それを証明すべき資料はない。

なお、本願発明とガス圧、多重遮断型等との関係について附言する。

乙第二号証に「回路電圧一一KV程度ならば一点遮断により、、、、」とあるように、通常のガス吹付遮断器は回路電圧一ないし二万ボルト程度につき一対の電極を要するものであり、本願発明といえどもこの基準から著しくかけ離れるべきものではなく、それがこの電圧を従来のものより高くすることを要件とするものでないことは明細書に記載するとおりである。このように本願発明は従来のものと同程度の電圧(一対の電極当りの電圧)を取り扱うものであるから、ガスの吹付によつて一たん消弧した後更に電極を引き離して(常用技術をもつて電極間隔を大として)遮断距離とすることによつて断路器を不要ならしめても、従来のものより高いガス圧を必要とすべき道理はない。また本願発明は多重型に構成せず単に一組の電極による一ないし二万ボルト程度のものであつても明細書所載の効果を失うものではないけれども、ガス吹付型遮断器が真にその威力を発揮するのは更に高電圧(多重型)においてであるから多重型について特許を請求したまでのことである。

以上のとおり、本願発明は第一引例及び第二引例と構成及び作用を異にし、新規な発明であつて、しかもただ新規であるというだけではなく、右新規な構成によつて顕著な工業的効果を奏するのに拘らず、これを不問に附してたやすく本願を旧特許法第一条の発明にあたらないとした審決は、違法のものであるから、右審決の取消を求める。

第三、被告の答弁

一、原告主張の一ないし三の事実は認めるが、四の主張はこれを争う。

二、原告の四の主張が失当であつて、審決が正当であること次のとおりである。

(一)  本願発明について。

本願の明細書(甲第一号証の二)によれば、本願発明は、従来のものにおける高いガス圧を必要とする欠点を改良し、僅かのガス圧で確実な電圧絶縁間隙を作ることができるように意図したものであつて、可動電極を開放状態において電圧絶縁間隙の形成に十分な距離が得られるような位置に鎖錠するようにし、この構成によつて、その意図したガス圧を下げるということができ、附随的に断路器が不必要になるという利点もある、とされているガス吹付開閉器である。

そして、その第一頁第一七行ないし第二頁第八行の「・・・・十分な電圧絶縁間隙を作る為めには、従来は・・・・(消弧後も断路器開放まで)吹付けは継続していなければならなかつた(註、かくして断路器に代つて遮断状態を保持させた)。・・・・(この)必要な空気間隙をつくるには必然的にそれ丈け高いガス圧が必要となつて来る欠点がある。本発明は固定絶縁体上に取付けた開閉室を有するガス吹付開閉器を僅かのガス圧で確実な電圧絶縁間隙を作ることができるように意図したものである。」なる記載から本願発明が改良を意図した欠点を有する「従来のもの」とは、電極に常時発条によつて閉合する力を作用させている型式のもののみのことであり、また右記載及び第五頁第一一行ないし第一三行の「かくて開閉器が第2図に示した状態(註、最終間隔位置)になると、圧縮ガスは通路(7)よりノズル(57)を通つて噴出し、これによつて電極(50)(51)間の電弧は吹消される。」なる記載から本願発明における電極間隙は、従来のものについていえば、消弧後断路器開放まで高いガス圧によつて吹付保持され断路器に代つて遮断状態を継続すべき間隙なのであつて、消弧遮断のために形成される開放間隙そのものに外ならず、それ以上のものでないことが明らかである。

本願発明の電極間隙が右のとおりであることは、右明細書にそれに関し記載するところが右摘記以外に特になく、かつ、審査における特許異議係争中原告自ら(甲第四号証の一四の弁駁書第三頁ないし第五頁参照)「・・・・(第一引例の如き)一個の遮断点を有するものでは、電極が開放位置において同時に電圧絶縁の働きをもするということは事実上不能であつて、その理由は、必要な電圧絶縁間隙は非常に大きなものであり、従つて電極杆をそのような大きな間隙まで動かすということは構造上よりいつて実現不可能だからである。・・・・本願発明はその前提として多数の直列な遮断点を有する開閉器の存在が必要なのであり、・・・・そしてこの場合、容量が各個の遮断点に分配され、以て各遮断点が単に直列に接続されている遮断点の数で全電圧を割つただけの電圧分のみを消弧後に絶縁しさえすればよいという認識によつたものなのである。この場合に必要な距離は消弧に必要な距離と同じもので、従つて開閉ヘツドを更に動かす必要は全くない。」と明言しているところからみて全く異論の余地のないことである。

なお附言するに、原告の右明言のとおり、本願において「開閉ヘツドを更に動かす必要は全くない」すなわち断路器を不要にし得るのは、「多数の直列な遮断点を有する開閉器の存在」いわゆる多重遮断を前提とし(本願明細書の「特許請求の範囲」には、この点は、「各」を以て表現されている。)、各遮断点の間隙が消弧後に絶縁すべき電圧を「この場合、・・・・遮断点の数で全電圧を割つただけの電圧分」のみとすることによることなのであつて、本願発明の電極間隙に関する明細書第四頁第一行ないし第二行における「間隙は電弧の形成を阻止するような距りにある。」あるいはその「特許請求の範囲」の項の「電圧絶縁間隙の形成に十分な絶縁距離が得られる如き距離」とは右の「(分配された)電圧分」に対してのことであり、このため、従来のものと差がなくとも本願発明の電極間隙が十分達成し得ているところをいつているに過ぎないのである。

(二)  原告主張四の(一)について。

本願明細書において本発明が改良したという、断路器を必要とした従来のものとは、前記のとおり、電極が常時互いに閉合するための発条の力を受けており、そのため、遮断開放時にガス吹付によつて発条に抗して動かされてもガス吹付を止めれば発条によつて自動的に閉合し、その開放間隙を保持しないもの、すなわち甲第一〇号証記載のもののみを指しているのであつて、その他の従来のものまでがすべて断路器を必要としていたわけではない。事実、断路器が独自の目的を有しそのために使用されるものであつて、遮断器に常に附属せしめられるというものではなく、それが遮断器とインターロツクされるのは、その誤操作を防止するとか、あるいは線路の遮断を直接見取り得るようにする必要がある場合であることは、乙第一号証、甲第七号証等に明記されるとおりであり、ガス吹付遮断器において断路器不要を明示したものが、本願出願前存在したことは乙第二号証にみられる如くである。更に、同様断路器不要のガス吹付遮断器たる甲第七号証記載のものも本出願前国内に入つていたことが甲第一一号証第八九頁右らんの記載によつて認められる。

そして本願発明が断路器を不要にし得る理由は、その明細書によれば前記(一)で詳述のとおり、従来のものと異り、遮断開放時電極を消弧遮断後鎖錠保持するからとされているのであつて、更にその鎖錠電極の間隙を従来のものにおける消弧遮断のために形成する間隙よりも大にするからとはされていないのであるから、本願発明と従来のものである第一引例とが遮断時形成する電極間隙においても差がないものであることは異論の余地がない。これに反する原告の主張は本願の明細書によつてもその根拠を見出すことはできない。

(三)  その(二)について。

第二引例が特殊の構造をとつているのは、遮断器において最重要な遮断時の「消弧作用を迅速確実」にするがためによるのであつて、消弧遮断後その電極間隙は大気圧下にあるのであるから、基本的には本願と同じく大気中で開閉するガス吹付遮断器に属し、そしてその電極鎖錠は電極を消弧後の開放位置に保持するものであるから、電極が高いガス圧を必要とせず僅かのガス圧で作動保持されるのは勿論、その鎖錠された開放間隙が本願におけるそれと差がなく、それと同等の電圧絶縁力を有し、それと同等に断路器を不要となし得るものであることは明らかである。

(四)  その(四)について。

乙第二号証記載のものが、その第二接点を消弧後圧縮ガス中におくのは、電極の鎖錠開放間隙の電圧絶縁力を圧縮ガスによつて一気圧の大気中におくよりも数倍大にして、第一接点、第二接点それぞれの電圧絶縁力の和である全体の絶縁力を大にするために過ぎず、それが基本的にガス吹付遮断器であつて、消弧後電極を開放位置に鎖錠することによつて断路器を不要にし、しかもそれを多重遮断によつて達成していることは異論の余地がなく、これらの点でそれは本願と一致する。

なお、附言するに、乙第二号証記載のものにおいて第一接点が閉合してしまつては、全体の電圧絶縁力がその分配分だけ低下し、断路器を不要にするという発明の目的に影響することは明らかであり、また本願発明も一組の電極によつて消弧し、他の組の電極間隙によつて断路器の作用をさせるものと説明し得るものである。

(五)  その(五)について。

本願発明における電極間隙が、従来のものの遮断時に形成する間隙そのものに外ならないことは、すでに(一)に詳記のとおり明細書の記載から認められるところである。

原告は、乙第二号証の「発明の詳細なる説明」の第一、二節の記載を引用して、右のとおりでは再点弧現象を防止し得ないと主張しているが、乙第二号証がいう再点弧現象とは、右第一節にその前提として明記されているとおり、「電極の未だ十分離間せざる間に回路電圧回復する」場合あるいは「若し進相用蓄電器群を含む特高回路」の場合に生ずるにすぎないものであつて、これが、従来のものでも周知の多重遮断とすれば、全体として電極の開離速度を大にして電極を消弧後速かに十分離間させることができ、また特高対策ともなり、更に、その各遮断点に並列に抵抗を接続すれば、進相用蓄電器群を含む回路対策ともなつて、その電極間隙を従来のものにおけるよりも格段に大にすることなくとも防止され得るものであることは、乙第三号証第一〇頁左らん第三行ないし第二六行の「多重遮断・・・・遮断点に並列に・・・・抵抗体を入れて・・・・充電電流(註、進相用蓄電器群を含む回路の電流)・・・・を切るときの過電圧の発生を防ぎ、また再起電圧(註、乙第二号証にいう回復する回路電圧)の上昇率を緩かにする・・・・」及び同右らん第一六行ないし第一七行の「多重遮断方式と非直線性並列抵抗を用いたことにもよる」等の記載にみられるとおりである。そして、電極間隙が従来のものと差がない本願発明もこの周知の手段を利用するものであることは前記(一)に明らかにしたとおりであり、更にそれに並列抵抗を利用するものであることも本願明細書第二頁第二〇行ないし第二二行に「遮断点に並列の抵抗を流れる残留電流の遮断点を・・・」と明記しているとおりなのであつて、本願発明の電極間隙はその距離によつて定まりこの多重遮断によつて分配された電圧分に対して十分な絶縁距離なのである。

原告はまた、本願発明の構成が、従来のものよりも高いガス圧を必要とせずに電極間隔を従来のものよりも格段に大にすることができると主張しているが、ガス圧利用の格段の改良をなした新機構によるならいざ知らず、そのような機構をなんら示さない、従つて従来のものと変りがない本願発明の電極移動機構が、従来のものよりも高いガス圧を必要とすることなく、従来のものより電極間隙を格段に大にすることができるとは、とうてい認め得ないところである。これは本願発明の目的が、従来のものより高いガス圧を必要とすることなく、に止まるものでなく、従来のものよりガス圧を下げることにあるところからみれば、異論の余地がない。

以上のとおり、本願発明の電極間隙は従来のものにおける開放間隙と差がないものであり、従つて本発明は第一引例の遮断器において、第二引例における電極鎖錠を採用して電極を消弧遮断後保持するようにしたものに過ぎず、その所要ガス圧の低下という効果は、第二引例の電極鎖錠が当然有し、第一引例に転用されても変りなく期待し得ることであり、また、その断路器を不要にし得るという効果も乙第三号証等に明示される周知の多重遮断として各電極に分配される電圧分のみを遮断絶縁させることによるものであつて、第一、第二各引例のものを多重遮断として当然得られるものをいうに過ぎないこと乙第二号証にも明示されるとおりであつて、本願発明はこのように、その目的、構成及び効果に格別な点のないものであるから、これを旧特許法第一条の発明というに足らないものとした審決には、取り消さるべきなんらの違法も存しない。その違法を主張して審決の取消を求める原告の請求は失当である。

第四、証拠関係<省略>

理由

一、特許庁における手続、本願発明の要旨及び審決理由に関する原告主張の一ないし三の事実は当事者間に争いがない。よつて以下審決の当否につき判断する。

二、本願発明、第一引例及び第二引例について。

(一)  右に争いのない事実及び成立に争いなき甲第一号証の二(本願発明の訂正明細書、以下明細書という。)によれば、本願発明の要旨は、審決も認定している如く、その「特許請求の範囲」の項に記載されているとおり、「電圧絶縁のための大気中の空気間隙と、固定絶縁体上に設けた開閉室とを有する吹付け開閉器において、少なくとも各一個の可動電極棒を、開放状態において、電圧絶縁間隙の形成に十分な絶縁距離が得られる如き距離に定置するように鎖錠することを特徴とする吹付け開閉器」にあることが認められ、そして、その目的とするところは、右明細書の「発明の詳細なる説明」の項に記載されているように、可動電極を、これに取り付けたピストンに圧縮ガスを作用させて固定電極と離間せしめ、これを開閉室内に引き入れ、その際そこに発生した電弧は大気中に放出される消弧媒体によつて吹き付けられる型の従来の大気中で開閉するガス吹付開閉器においては、十分な電圧絶縁間隙を得るために、これに直列に接続した断路器を設けるか、あるいは開閉室を駆動装置によつて一定の間隔だけ回動させるようにしていたが、これらの方法では断路器を開放するまでの期間あるいは開閉室の回動が完了して必要な空気間隙が得られるまでの期間は、ガスの吹付けを継続して行わなければならず、従つてそれだけ高いガス圧が必要であつたところ、本願発明は、開放状態において、電圧絶縁間隙の形成に十分な距離が得られるような位置に可動電極を鎖錠するものであるから、電圧絶縁のための直列断路器あるいは開閉室の駆動装置を不要ならしめ、その結果ガス圧を低下せしめるばかりでなく、開閉器全体の構造を簡単ならしめて、従来のこの種の開閉器のこれら欠点を除去するにあることが認められる。

(二)  次に成立に争いのない甲第四号証の九によれば審決が引用した第一引例は絶縁性支持碍管(7)・(8)によつてそれぞれ支持された電極室(3)、(4)内には、それぞれ固定接触部(1)及び可動接触部(2)が設けられ、圧縮ガスによつて可動接触部(2)が操作離間されると同時に回路遮断によつて発生する電弧が噴出される圧縮ガスによつて吹き消され、消弧後の可動電極は電極室内に収容される型の大気中で開閉するガス吹付遮断器において、前記碍管(7)、(8)の内部にそれぞれ設けられたガス送給管(9)、(10)等を通じて、遮断器の開放中及び閉合中常時ガス溜(17)より加熱絶縁性ガスを電極室及び支持碍管の内部に流通せしめて、これら部分が湿気、塵埃を含む外気を吹引して絶縁の低下を来すのを防止すると共に、接触部及び操作部を暖ためて凍結による開閉不能等の事故を防止することを目的とした遮断器の構造にかかる考案であることが認められる。

(三)  また、成立に争いなき甲第四号証の八によれば、審決の引用した第二引例は、支持碍子(8)、(9)によつて支持された筒状の消弧室(3)の内部一端には圧縮空気の噴出口(6)の設けられた固定接触子(1)が取り付けられ、また右消弧室(3)の内部には可動接触子(2)と共に、これと一体をなし消弧室内に嵌合し、可動接触子が常時固定接触子と閉合するように発条(5)によつて弾圧される喞子(4)が収納され、噴出口(6)より消弧室(3)内に噴出する圧縮空気が右喞子(4)に作用して可動接触子(2)を発条(5)に抗して接触部を開放し、一定の位置まで押し上げて突起(14)及び端子金具(16)によつて固定せしめ、可動接触子(2)が固定接触子(1)と離間する際に発生する電弧の消弧は、右の噴出口(6)より噴出する圧縮空気の吹付作用と、喞子(4)が一定の位置まで押し上げられることによつて開口する排気口(7)から圧縮空気が逸出して消弧室(3)内の圧力を急激に低下せしめる際の圧縮空気の膨脹作用とによつて行うことを特徴とする回路遮断器の構造にかかるものであることが認められる。

三、審決の当否について。

(一)  右(一)の認定の示すように、本願発明の空気遮断器は、従来の遮断器が遮断部と別個に電圧絶縁のための手段として、直列断路器や開閉室の回動装置を設けていたところ、この手段に代つて、電極開放間隙に電圧絶縁のための十分な距離を与えることにより、これら従来の遮断器の具有していた電圧分離のための別個の装置を省路することを可能ならしめ、従つて機構が簡単になると共に、従来の遮断器が電圧絶縁のためその装置の操作期間中遮断部のガス吹付を継続していなければならないために、高いガス圧を必要としていたのを、その必要がなくなつて低いガス圧で足りるようにした点で効果を奏するものであつて、その遮断部は電圧絶縁を行うに十分な電極開放間隙を有し、電流の遮断と電圧の絶縁とを同一個所で併せ行うことを特徴とする大気中で開閉するいわゆるフライシユトラール型空気遮断器であることが明白である。

(二)  しかるに、これに対し、第二引例は前記二の(三)の認定からも分るように、それが空気遮断器であること及びその可動接触子が開放状態において定位置に鎖錠されることは本願発明と同等であるが、その接触子の開閉は本願発明のように大気中で行われるものではなく、消弧室内において行われるものであつて、消弧の機構を異にするのみならず(圧縮空気の吹付作用と膨脹作用を併用していること前記のとおり。)、右引例明細書の記載からは、該引例においては、その開放された接触子間の距離が本願のいう電圧絶縁間隙を形成するに十分な距離であることを意図したもの、すなわち遮断部において電流の遮断と電圧の絶縁とを併せ行い、電圧絶縁用の附属直列断路器その他これに代る手段を不要ならしめたものであることを認めしむべきものは、何らこれを見出すことはできない。すなわち、前記甲第四号証の八にも、圧縮空気による消弧特にその吹付作用に加えるに膨脹作用によつて消弧を迅速、確実ならしめる構造である旨摘記されているにとどまり、可動接触子の開放位置については、単に「所定開放位置」とか「所定位置」と記載しているだけで、これを電圧絶縁との関係で意味づけるなんらの記載もされていないところからすれば、第二引例の遮断器は、消弧をのみ当面の目的としたものと認められるにすぎないところであつて、証人大槻喬の証言によつてもこの遮断器では電圧絶縁のためには断路器の使用その他別途の考慮が必要であるとみるのが相当である。

(三)  ところで審決は前記のとおり、本願発明を、(1)固定絶縁体上に開閉室の設けられたガス吹付型開閉器であること、(2)少なくとも各一個の可動電極棒は開放状態において十分な絶縁距離が得られるが如き距離に定置するよう鎖錠されること、の二要件に解析した上、第一、第二各引例をそのいうようなものであると認めて、(い)右(1)の構成要件は第一引例と同等であり(ろ)また、(2)の構成要件は第二引例と同等である、とし、本願は右各引例の単なる組合せにすぎないとしたものであるから、たとえ(い)の判断は正当であるにしても(ろ)の判断の失当であることは右に説明の通りである以上この点の判断を誤まり、この誤つた判断の下に本願発明の特許性を否認した本件審決は違法であつて取消を免れないというべきである。

四、被告の主張について。

(一)  被告は、本願発明はその前提として多数の直列した遮断点を有する開閉器であることを必要としているものであり、そしてこの場合、各遮断点は全電圧を接点の数で割つた電圧の絶縁を行えば足りるのであるから、本願明細書の「発明の詳細なる説明」の項の第2図の説明中「間隙 は電弧の形成を阻止するような距りにある。」あるいはその「特許請求の範囲」の項にある「電圧絶縁間隙の形成に十分な絶縁距離が得られる如き距離」は右分配された電圧分に対して十分な絶縁距離であればよいことが分り、本願発明が断路器を不要にし得る理由は、可動電極を開放位置に鎖錠するからであつて、その電極開放間隙は断路器が開放するまでガス吹付けによつて電圧絶縁を維持する従来の遮断器における消弧間隙となんら異なるところがないのであるから、第二引例が本願発明と同様その可動電極が開放位置に鎖錠されている限りにおいて、その開放間隙は本願発明のいう電圧絶縁間隙を形成するに十分な絶縁距離が得られるが如き距離に該当する、と主張する。

しかしながら成立に争いなき乙第三号証によれば、遮断器において多重接点が採用される理由は、一個の遮断点で処理し得る電圧及び電流には実際の技術上おのずから限界があるので、大容量高速度遮断器になると必然的に多重接点とならざるをえないのによるものであることが認められ、この観点から本願明細書を検討すれば、本願の遮断器において多重接点を採用したのは、単に右の実際上必要とされる要請に基くものと解するのが相当であつて、多重接点を採用した結果明細書記載の作用効果を奏するに至つたものとするのは合理的なものとは認められない。すなわち被告は、多重接点との関係において本願明細書における前記「間隙 は・・・」あるいは「電圧絶縁間隙の・・・」にいう距離は多重遮断において各遮断点に分配された電圧分に対して十分な絶縁距離であればよいことが分るから、右記載の距離は格別の意味のない当然のものであるとか、それは従来のものにおける消弧間隙と同じものである、となし、ひいて本願の効果は従来のものにおいても達し得る、多重遮断型にしたことによる効果である、というのであるが、遮断器において多重型が採用されるのは、右乙第三号証によつても明らかなようにただ前記の実際上の要請のためであり、このためには単にガス遮断器のみでなく、各種遮断器において採られることなのであつて、多重式であるということとガス吹付型遮断器であるということ、更にはその遮断点の電極分離が分配電圧に対する十分な絶縁距離とされるということとの間に技術本来の結びつきがあるわけでないことが認められるところであるから、本願がガス吹付型遮断器を多重式とした上で、電極を、電圧分離の目的から、各遮断点に分配された電圧分に対応せしめての、いうところの「電圧絶縁間隙の形成に十分な絶縁距離が得られる如き距離」(この距離が本来独自のものであり、従来のものにおける消弧間隙と同一視されないことは後記のとおり。)に特に位置ずけるものである事実を無視し、あるいは右の「距離」を従来のものにおける消弧間隙と同視して本願にいうところの効果が多重遮断によるものであるとするのは、本願を正解しないものというの外はない。成立に争いなき甲第四号証の一四における被告指摘の記載も、その表現自体からは、いささか誤解を招き易い点がないではないが、その前後の文章を通じてこれを見れば、要するに、本願が多重式において、接点の数は電圧分離技術上適切とされる分配電圧との相関関係において相当なものに定め、各遮断点における電極距離は分配電圧分に応じて絶縁に十分ならしめる、というに外ならないことを表現したものとみるのが相当であつて、いわゆる消弧距離と電圧分離距離とが大きさとして相等しいことをいつているとみるべきではなく、若し右の表現がその趣旨において使用せられているものとすれば、それはなんらかの誤記にでたにすぎないものと認めるのが相当であるから、同証の記載はなんら被告の前記主張を支持するものではない。

そしてすでに前記認定のとおり、本願発明は、遮断部において電力の遮断と電圧の分離とを併せ行うために、電極離間の距離に特に電圧絶縁のための十分な距離を与えようとするものであるから、その電極開放間隙は、断路器が開放するまでの間高いガス圧によつて遮断状態の継続を計ろうとするにすぎない従来の遮断器における消弧間隙とこれを同一視することはできないことは明らかであつて、証人大槻喬の証言によつても、電圧絶縁のために十分な電極離間距離は、使用電圧に対し、気圧の大小、電極の型等に対応して定まるものであるが、いわゆる試験電圧によつて実地に定められており、その距離は実際上も右の消弧距離と一致するものではなく、一般にそれよりも相当大であることが認められる。

なおまた、前記認定から分るように、本願発明が可動電極を開放位置に鎖錠するのは、電極開放間隙を電圧絶縁のための十分な距離に保持するための一つの手段であるのに対し、第二引例の遮断器がその可動電極を鎖錠するのは、さきに認定したところによつて明らかなように、喞子(4)を排気口(7)の上に押し上げて消弧室の開放を維持し、空気の膨脹による電弧の冷却をはかり、圧縮空気の吹付作用と相俟つて消弧効果を上げることを本来の目的とするものであるから、第二引例において本願と同様その可動電極が開放位置に鎖錠されるからといつて、それから直ちに第二引例の開放間隙が電圧絶縁を意図して断路器その他を不要ならしめたものであり、それが本願発明のいう電圧絶縁に十分な距離にあるとするのは理由なき早計というの外はない。

(二)  被告はまた本願が断路器を不要にした点について、従来の空気遮断器の悉くが断路器を必要としたものではなく、例えば乙第二号証及び甲第七号証記載のものの如く断路器を必要としないガス吹付遮断器も本願出願前存在していたとして反論し、また第二引例の可動電極が鎖錠されるのは電圧絶縁を目的としたものであつて、遮断後の電極開放間隙は大気圧下にあるから、その開放間隙は本願発明の大気中で開閉するガス吹付開閉器における電極開放間隙と一致する旨主張する。

しかしながら成立に争いなき乙第二号証及び甲第七号証によれば、その各記載の遮断器は、ガス吹付遮断器ではあるにせよ開閉室内において消弧と電圧遮断が行われ、高圧下におかれた開閉室内で電圧絶縁が保たれるものであるから、大気中で開閉し、かつ大気中で消弧と遮断が行われる本願発明とは、遮断器としての型式を異にし、消弧及び電圧絶縁の方式を別にしており、これら密閉式遮断器における断路器を不要ならしめた技術は本願の開放式遮断器における前記認定のその技術とは別異の構想、技術にかかることが認められるのであつて、これらにおけるその技術を本願のそれに比すべくもない。いまこれを乙第二号証によつて、その所載の遮断器についてみるに、それは第一接点においてガス吹付による消弧を行い、第二接点において、それが圧縮ガス中におかれて圧縮ガスの高耐電圧性により、絶縁を確保するもので、第一接点が遮断部の、第二接点が断路部の作用を行うものであることが明らかであるから、この遮断器において本願のいう十分な電圧絶縁間隙に保たれるのは遮断部たる第一接点ではなく断路部たる第二接点であつて、それは圧縮ガス中において存するのに対し、本願においては遮断部そのものを十分な電圧絶縁間隙に保つものであり(遮断部に断路部の作用を兼ね営ましめる。)、そしてそれは大気中において存するのであるから、両者における電極開放間隙、電圧絶縁の手段は同一視すべくもない。

なおまた、第二引例の電極開放間隙、その鎖錠が本願のそれと同視し得ないこと前記のとおりであつて、第二引例の消弧室が消弧後大気圧下におかれるということと本願の大気中で開閉するということとはおのずから別個のことに属するから第二引例の電極開放間隙が本願のそれと一致する旨の被告の前記主張も全く理由がない。

(三)  なお、被告は本願の目的はガス圧を下げることにその本体的部分があり、附随的に断路器が不要になるという利便等もあるというものであるとし、かような理解に立つてそのいわゆるガス圧の低下に関連して種々の主張をしているが、さきに本願の目的について認定したところによつて明らかなように、それはこの種遮断器においては消弧はガス吹付により、電圧絶縁は断路器等の設置、操作によつて行つていたのを、この断路器等絶縁のための特別の装置の設置、操作を不要ならしめたものであつて、これに伴いいわば附随的に、右の操作完了までの間ガス吹付を継続するの要なきに至つた結果それだけいわゆるガス圧を低下する、等の利点をも招来したというものである、とみるべきであると共に(この種遮断器において、断路器等絶縁装置の省略が幾多の利点をもたらす大きな進歩であることは、前記甲第七号証、成立に争いなき甲第一五号証、第三一号証及び証人大槻喬の証言に徴して明らかであるのに対し、ガス圧の低下ということが特に課題となつていることは認むべき資料もないのであつて、このことは本願の目的についての右の認定を支持するものといえよう。)、右によつておのずから明らかなように、そのガス圧を低下するというのも、前記のようなガス吹付時間の短縮によつて、圧縮ガスの使用が減少するというのに外ならず、圧縮ガスの圧力そのものの低下をもたらすというものではないのであるから本願の目的ないしはそのいうところのガス圧の低下の趣旨に関し、明細書の部分的記載に立脚して以上と異る認識に立ち、これに基いてなす被告の主張は失当たるを免れない。

これを要するに、被告の主張はいずれも採用することができない。

五、以上のとおりであるから審決の取消を求める原告の請求を認容すべきものとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 山下朝一 多田貞治 古原勇雄)

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